2007年8月10日金曜日

『言わなければよかったのに日記』

夏といえば、
夏休みといえば、
読書

この強い連想は、

夏休みの読書感想文の宿題や、
学研が「科学・学習」購読者向けに
だしてた夏休み副読本、
そして、新潮文庫のキャンペーンに
よるところが大きい

ありあまる時間を
昼下がりの日差しや
蝉がなく声を背景に
箱庭のように完結した世界に
浸かりきって過ごした、
あの甘美な体験のせいだ

仕事に関するもの以外、
何か体系的に読もうなんて気はないし、
それに読むのがすごく遅いし、
読んだ数だってたいしたことないし、
でも、本が好きだと言えるのは
あのとろけるような体験があるからだ

だから今年の夏も、
なにかいつもとちょっと違った
気持ちで本を手に取る

そして、なぜか手に取ったのが

"言わなければよかったのに日記 (中公文庫)" (深沢 七郎)

渋いというかなんというか、
まあとにかく時宜にかなうということは皆無の、
自分でもなぜ深沢七郎なのか
よく意味がわからない選択なのだが、

どこの誰だって人間ならこんなふうに実は
”何も身につけてはいない”んだよなって思わせる、
例えば「銘木さがし」の飄とした旅っぷりを
はじめとする漂泊の日常を描いたエッセイの中でも

「思い出多き女おきん」で描かれた
山梨で印刷業を営む深沢家の女中おきんが
特に印象に残った。

仕事がきらいでへたくそで、
遊びが大好きでちゃっかりしてて、
ものが大切にできなくて、
激しいところがあって、
でも暇をもらって内緒で恋人と
旅にでる先はどっかの温泉とかじゃなくて
善光寺っていうまじめな、
おきんのような女を
「偉い女だ」といい、
本当にそうだなと僕に思わせるように、

僕は現実に知っている
おきんのような女性の「偉さ」を
自分のことは偉いなんて思わないし
そんなことはたぶん関係ない当の本人にかわって
深沢七郎が言葉でそうしたように
この世に存在させることができるだろうか?

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